『アイアムアヒーロー』の23巻以来、およそ1年10ヶ月ぶりとなる花沢健吾先生の新刊が私の手元にも届きました。
それも『アンダーニンジャ』と『たかが黄昏れ』の第一巻が同時到着です。正確には『アンダーニンジャ』が第一巻、『たかが黄昏れ』は小学館流に第一集です。

思い起こせばはや半年以上前、両作品の連載開始も昨年七月同時スタートでした。正確には『アンダーニンジャ』の連載開始が昨年2018年7月23日月曜日発売の『週刊ヤングマガジン』第34号、『たかが黄昏れ』が同じく7月27日金曜日発売の『ビッグコミックスペリール』第16号と、四日の違いはありますが、雑誌発売日の違いを無視すれば実質同時スタートです。
連載開始も最初の単行本発売も同時。まったくなんという偶然、というわけではもちろんないでしょう。
ちょっと話は変わりますが、二つの企業が合併するとき、大きく吸収合併と対等合併に分けられます。合併がスムーズに進むのは前者です。大が小を飲み込むのですから、大のルールを強引に押し通すことができます。時にそれは飲み込まれる側にとっては悲劇に結びつき、たとえば都銀が信用金庫を救済合併するときなどに仄聞する人事無情物語になったりしますが、トータルでは合併の実を得るに迅速です。
一方、対等合併の場合は当事者に大変な苦労があるといいます。対等をうたう以上、両社出身者を公平に扱うことが大前提となります。人事は末端までたすき掛けとなり、給与や制度・慣習の違いを埋めるにも、両社出身社員の相互の顔を立てる・メンツをつぶさないようにすることに多大なエネルギーを消費させられます。
前作『アイアイムアヒーロー』掲載誌は小学館発行の『スピリッツ』でした。『たかが黄昏れ』は同じ小学館発行の『スペリオール』で連載が始まりました。移籍です
同じ出版社とはいえ、花沢健吾氏は氏の長期連載『ルサンチマン』、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、『アイアイムアヒーロー』三作すべてを『スピリッツ』誌上に連載してきました。『アイアムアヒーロー』にいたっては当時の看板作といっても過言では無いと思います。それを打ち切りに近いかたち(※)で終え、他誌『スペリオール』に移籍したのですから、私のような素人読者にとっては、ちょっと普通ではない印象でした。
さらに『アンダーニンジャ』掲載誌は講談社発行の『ヤングマガジン』です。小学館にとってライバル社である講談社の、『スピリッツ』誌にとってライバル誌である『ヤングマガジン』への移籍です。註釈しておけば、花沢健吾氏と講談社が従前無関係であったわけではありません。いくつかの短篇のほか、『アイアムアヒーロー』連載開始直前には短期連載『チンパー』(中断)を講談社『モーニング』誌に掲載しています。だから講談社編集者とのつながりも当然あったのでしょう。
しかし、繰り返しになりますが、当時スピリッツ掲載作の単行本単行本売上でもトップクラスだった『アイアムアヒーロー』の連載を強引とも思える終わらせ方をし(※)、兄弟誌だけでなくライバル誌にも移籍したのですから、私のような素人読者にとっても、なにか尋常でないことが起こっているのだろうなという印象を、受けざるをえませんでした。
また、作画の現場は知りませんが、新規連載、あるいは単行本刊行という作業は、たとえ一作であっても作家の多大な労力を必要とすることは想像に難くありません。二作ならタイミングをずらそうとするのが自然でしょう。
しかし両作品の連載は実質同時スタートとなり、最初の単行本は同日発売となりました。
また、この両作品のツイッター公式アカウント(@Iam_a_HERO)は、そのID名が示す通りもともとスピリッツ誌の『アイアムアヒーロー』担当編集者が代々使用してきたアカウントです。それが現在スペリオール、ヤングマガジンの両担当の共有アカウントとなっています。これも極めて異例でしょう。
ほんとうに、なんか色んな力が働いた上でのこのバランスなんだろうな、と思っています。
なお、第一巻(第一集)は同時発売でしたが連載間隔の違いにより、第二巻(第二集)は『アンダーニンジャ』が少し早くなる模様です。各巻末予告では『アンダーニンジャ』第二巻が「夏頃」、『たかが黄昏れ』第二集は「今秋」、とあります。

実際、『アンダーニンジャ』は連載が12話まで進んでいるうちの第9話までを今巻に収録していて貯金3話なのに対し、「たかが黄昏れ」は現時点の最新第9話までをすべて今第一集に収録と貯金ゼロです。
参考:
花沢健吾『アンダーニンジャ』―ヤングマガジン掲載情報
花沢健吾『たかが黄昏れ』 ― ビッグコミック・スペリオール掲載情報
(※この項続きます)。