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本記事は掲載回を読んだ人向けの記事です。あらすじを紹介するものではありませんが、物語の核心部分のネタバレを含みますのでご注意下さい。




さて第二話が掲載されました。

第一話と同様、主人公「ひなた」と周りの人間との会話、および背景描写を通じて、ひなたのプロフィールと、この物語の世界の仕組み、あるいは世界観が少しずつ明らかになっていく構成です。

第一話では、潮干狩りに出かけたひなたと学友との会話を通じて、ひなたのやや直情的かつ内省的な性格が描かれ、この世界では男性が存在しない、いや男と言う概念自体をタブー視していることが明らかになりました。また学友三人がいずれも、程度の差はあれ、その欠落を知識ではなく身体内うちからの衝動として自覚し始めていることが描かれます。

そして最後にひなたの衝撃的なモノローグにより、ひなたたちの生れた年に日本人最後の「男」が死んだことが示されました。また一話では冒頭のシーンで、この世界では現実の日本より強い軍事的なプレゼンスのあることが暗示されています。

今回第二話では、ひなたの帰宅後、妹との会話を通じて、ひなたの性格、あるいはこの世界の輪郭がより鮮明になってゆきます。


[目次]


時代設定

本作と同時に連載開始された『アンダーニンジャ』では、作中の日本の時代設定は現代に置かれています。「戦後70年がすぎ」ていること、主人公が普通にスマホを使っていることから、『アンダーニンジャ』の世界は2010年代中盤以降の日本、つまり現代日本とパラレルな世界です。

一方本作『たかが黄昏れ』では、今回第二話で描かれた、ひなたと妹、それにおばあさんの住む団地(5階建て・おそらくエレベータ無し)、そして銭湯の描写からは、作中の「日本」がかなり昔の時代に設定されているようです。スマホはもちろんこれといった電子機器は見当たらず、家具・台所器具・照明・銭湯の施設もかなり古風な印象です。ただ冷蔵庫、電子レンジ、エアコンはあります。

ひなた宅台所
ビッグコミックスペリオール2018年17号「たかが黄昏れ」より、ひなた宅台所

『アンダーニンジャ』では主人公は10円玉しか使えない旧式簡易公衆電話の設置された、それこそ昭和のボロアパートに住んでいますが、これは下忍であるニート主人公の経済状況を示したもの。本作ひなたは、世間に比べてとりわけ貧乏な家庭の子という印象でもなく、こうした風呂なし団地が一般的な時代という設定だと思います。

具体的には1970年代、遅くとも1980年代の日本を想定しているのではないでしょうか。

出生の秘密

まずひなたに妹が存在すること、それ自体がこの世界の仕組みを語る重要な鍵となります。

第一話の段階では、ひなたたちが日本最後の「男」の遺児である可能性はまだありました。前回の記事で、その最後の男が相当の年配に見えること、ひなたたちの世代が少なくとも学校が成立するほどのボリュームのあることから、その可能性は非常に薄いと書きましたが、論理的にはまだその可能性はありました。

しかし妹はひなたより数歳年下です。日本最後の「男」の死の数年後に生まれた子です。つまり少なくとも妹は、日本人男女の両親から一般的な過程を経て産まれた子供ではないということになります。妹がそうであれば、ひなたについても、高齢の男性が数多くもうけた子供の一人という無理な前提を置く必要はないでしょう。

ではどうやって妹やひなたは産まれたのでしょうか。ひなたと妹との会話から、この世界でも子供は日本人女性が出産していることが明らかになっています。したがって可能性としては、

  1. 母親は日本人以外の男により妊娠した
  2. 遺伝子工学的手法により処女懐妊した
  3. 絶滅する以前に日本人男性から採取した精子による人工授精を受けた

あたりが考えられます。

まず1ですが、ひなたも妹も顔立ちは純然たる日本人です。コーカソイドその他とは程遠い、控えめに見てもモンゴロイド系の顔立ちです。とは言えモンゴロイド系の他国の男性が親という設定を盛り込むのもかなり無理がありそうです。1の可能性は薄いと思います。男が存在しないのが日本だけなのかどうかもまだ断定できません。

次に2。現代の日本でもiPS細胞その他の遺伝子工学技術による「処女懐妊」は、倫理的問題を置いてもまだ実用化には至っていない段階です。上述のように作中の時代設定は現代より30~40年は昔のようですので、当時の技術水準に忠実な設定であるならば、これはありえないということになります。

もちろん現実の日本の1970~80年代なかった徴兵制がこの世界に存在してること(後述)と同様、現実の日本では当時まだ未発達だった遺伝子工学がこの世界ではずっと進んでいるとう設定の可能性はあります。

3は、生存中の日本人男性の精子を冷凍保存し、男性絶滅後、それを利用して妊娠した、というケースです。いわゆる精子バンクは1960年代に実用化しています(ウィキペディア ― 精子バンク)。したがってこの作品の時代設定とも矛盾せず、将来の出産数が保存された精子の量に規定されることからタイトルの「黄昏」にも繋がります。

ということで、可能性として一番高いのは上の中では3と思われますが、現時点では情報が少なく、正直どれをとっても今ひとつピンと来ません。

小松左京に「お召し」という傑作短編があります。ネタバレは避けますが、その世界では赤ちゃんは何もない空間から突如生まれてきて、13歳になると消失します。あるとき突然そうなります。最後に作者によりその理由らしきものが暗示されますが、理由よりも突如その状況下におかれた子どもたちの描き方が素晴らしく面白い作品です。おすすめ短編です(萩尾望都による漫画化もされています)。

本作でも、上に三つあげた可能性以外の、なにかもっと意表をついた設定が出てきたら楽しいですね。




長くなりましたので、以下は別記事にします。

花沢健吾『たかが黄昏れ』第二話 (2/2) に続く