「アイアムアヒーロー」第168・169話【ネタバレ注意】

今回第169話で、箱根湯本編もどうやら終わり、もしくは終わりに近づいたようです。

箱根湯本編の主役ともいえる合体ZQNも今回でその役割を果たし終えたようで、おそらく今後、覚醒者ネットワークの共有記憶の中は別として、漫画内の現実世界に再登場することはなさそうです。




今回はその合体ZQNについてまとめてみたいと思います。以下ネタバレです。

合体ZQNの正体

比呂美一行を救いに現れ、英雄を腔内に格納して保護した合体ZQNの正体 — 正体というか元人物は、おそらく近在のホームレスではないかと思います。少なくとも合体したうちの一人はそうでしょう。

根拠は、「追憶のスープ」にも書きましたが、英雄を救おうとした直前に見せた彼の挙動、つまり自販機の取り忘れ釣銭探しです。わざわざこの描写を入れたのは彼の性格、つまり彼の常人だったころの習慣を描くためでしょうし、釣銭探しを習慣とする職業と言えば、ホームレス的なものを考えるのが自然です。

合体ZQNはなぜ助けに来たのか

登場して以降の行動から、合体ZQNの目的が最初から比呂美一行の救出であったことは明らかであり、英雄に会った時から、英雄が比呂美一行の一員であることも、すでに合体ZQNは把握していました。

それではなぜ合体ZQNは比呂美一行の存在を察知し、さらにその危機的状況を把握できたのでしょうか。また、なぜ彼は身を危険に晒してまで、一行の救出に現れたのでしょうか。

まず合体ZQNが比呂美の存在を察知し、その危機的状況を把握できた理由は、これまで何度か触れた覚醒者同士のネットワークに、合体ZQNもコネクトしていたからでしょう。

ZQNの中でも覚醒者(クルス的存在)となったものは、覚醒者同士のネットワークを通じて、距離に寄らず意思の疎通を行えるようになります。また、英雄が体験したように(英雄はおそらく覚醒者でも感染者でもなかったでしょうが)、覚醒者は互いのイメージ・記憶を共有、もしくは覚醒者の全体意識の中の記憶を保持するようになります。

合体ZQNも覚醒者の一員であり、したがってネットワークを介して比呂美一行の位置と危機を知り、救出に来たのでしょう。

ここで注意しておくべきことは、比呂美自身は、そうした情報を発信していたことを自覚していないことです。比呂美自身が語った通り、箱根テント村で目覚めると同時に比呂美は、それまで夢の中で体験していた覚醒者同士のコミュニケーションを失い、「一人になった」と自覚しています。

つまり比呂美は、意識的には覚醒者同士のネットワークから遮断された状態です。黒焦げZQNや合体ZQNに対面したときは直接的な(言語に寄らない)意思の疎通を行っていますが、これはおそらくピア・ツー・ピア的な意思の交感であり、ネットワークからは、意識上では、遮断されたままだったと思われます。

しかし人の(そして覚醒者の)意識の下には広大な無意識の海が広がっています。フロイト流の意識・無意識についての思弁的考察の話ではなく、意識がどうやら無意識の活動の後追いとして生まれている、ということも実験的に確かめられています。我々が自由意思に基づいて手を動かしていると思った行為も、実際はそれに先立って無意識下で、その行為を引き起こす神経発火が発生しており、そのコンマ何秒後に「手を動かそう」という「意識」が後追いで生まれてくる、という実験結果です(この辺は若干異論もあるようですが、話も脇道に逸れますので、興味のある人はリベットの『マインド・タイム 脳と意識の時間』をお読みいただくか、このあたりの考察をご参照ください)。

ともあれ比呂美は、意識的には無自覚のまま、意識下で自分たちの置かれていた危機的状況を覚醒者ネットワークに発信していたのでしょう。それはSOSを発信する、というより、シチュエーションそのままをイメージとしてブロードキャストしていたのかもしれません。

そしてそれを受信した合体ZQNが、比呂美一行を襲おうとしていたZQNを抑えるようにして登場したのでしょう。

それでは、合体ZQNが比呂美一行を救おうと思った理由は何でしょうか?



合体ZQNの性格

これまでに登場した覚醒者は、来栖や石破のように過剰に攻撃的な性格であったり、崇のように内向的・抑制的性格であったり、比呂美のように屈折と素直さを包含したプリズム的性格であったりと様々であり、要は元の性格・人格を反映しています。

合体ZQNが比呂美一行を救おうと思ったのも、結局は彼の元々の個性、優しさ故であったのでしょう。

優しさは往々にして優柔不断と同義語に扱われます。それは合体ZQNの場合も当てはまっているようです。てんぐ温泉から湯本駅前への脱出に際しても、彼は何度も判断に迷います。

優柔不断というより、性格的な意思の弱さと言ってしまっても良いかもしれません。彼は腔内に取り込んだことにより(本来は覚醒者同士のネットワークへの参加能力のない)英雄と直接的意思の交感をしていますが、往々にしてその飲み込んだ相手である英雄に行動のヘゲモニーを奪われていました。

それでも彼はその優しさを最後まで完徹し、身を犠牲にして比呂美一行を救出する役割を果たします。これまでの覚醒者の中では崇に一番近い性格であると言えます。それゆえ、英雄の見た最後のビューは、羽生妹を救うために身を犠牲にした崇の記憶に重なったのでしょう。

※記事中で引用した画像は単行本・花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)、または週刊『スピリッツ』(同)より

(2013/05/31 17:14 投稿)