「アイアムアヒーロー」第165話・第166話【ネタバレ注意】

「手が四本、足が六本、口が一つの化け物な~~~んだ」というのは、アイアムアヒーローの先週・今週号を読んだ良い子のみなさんにしか解けないナゾナゾですが、そのアイアムアヒーローの第14巻の発売日が確定しました。

アイアムアヒーローの単行本の収録話数はこれまで11話ないし13話、平均で約12話です。14巻が12話とすると、来週号掲載の167話まで収録ということになりますが、今回はスピリッツ掲載から単行本発行までのスケジュールが「取って出し」に近いこと、また今週号第166話が、単行本のヒキとしては理想的な終わり方をしていることを考えると、第166話までの11話収録ということになるかもしれません。

さてここからはネタバレフルオープンです。

クルス改

藪一行の窮地を救うのは比呂美の第三の能力ではないかという私の予想は9割がた外れ、実際に救うことになりそうなのは、新たに登場した新型ZQN・クルス改のようです。10割外れではなく9割がた外れとしたのは、このクルス改に比呂美の意思が働いている節が伺われるからです(後述)。

まずこの新型ZQNは、半裸・ブリーフ一丁・ロンゲという、伝統的来栖スタイル(笑)を踏襲しており、また、覚醒者の持つ能力、つまり遠隔地の覚醒者同士のチャネルを介した意思の疎通、もしくは意識の共有能力を持っていることから、来栖型ZQN=覚醒者であることは間違いないでしょう。




伝統的来栖スタイルと異なるのは、この新型ZQNが合体型の来栖であった点です。つまり意識の共有だけでなく、肉体の共有へと一段階進んだ姿でした(そのため今回はクルス改と表記しています)。実際には合体したのか併呑したのかは定かではありませんが、今週号で見せた挙動(自販機の釣銭漁り)からすると、どうやら少なくともその一体はホームレスか何かだったようです。なお、新型ZQNの姿が合体で無く、分裂の途中、という見方は却下しておきます。

155話で比呂美の語った内容からすると、覚醒者同士の意思の疎通は、音声型の言語のやり取りやそれに伴う感情の共有、つまりチャット的なものでしたが、今回の新型ZQNの見せたビューは、視覚体験の交換、もしくは共有に近いものです。ZQN同士のSNSと書くと当たっているのかもしれません。

『神への長い道』

ベルギー編以降の展開を読んで、いつも私の脳裏に去来するSF作品がありました。小松左京の中編小説『神への長い道』という作品です。最後に読んだのは30年近く昔なので細部までは覚えてはいませんが、遠い星を訪れた地球人の話です。地球人よりはるかに進んだ科学技術を持つ彼らの文明は、それゆえ行き詰まりを迎えていました。

その行き詰まりを打破するための彼らのいくつかのチャレンジの一つが、互いの意識を直結し、もともと高度の頭脳を持つ彼らが、高速に、多人数で、あらゆるパターンの議論(これもまぁ、チャット)をするための施設でした。そこを訪れた地球人が、というような話です。

これ以上書くとネタバレになりますので控えておきますが(というかかなりの程度ネタバレしてしまいましたが)、当時のSF少年の頭にガツンと衝撃を喰らわせた小松左京傑作SFの一つですので、ネタバレに関わらず、ぜひご一読をお勧めします。

本作で描かれつつある精神の共有→肉体の共有も、「神への長い道」の行程なのかもしれません。

追憶のスープ

前回・今回を通した謎の一つは、覚醒者同士のビューの共有を、なぜ英雄も体験しているのかという点です。

一つの可能性は、英雄がクルス改に飲み込まれると同時に感染・覚醒し、覚醒者になった、もしくはこれまでの逃避行中に自覚無く半感染者となっていた、という可能性です。

もう一つは、英雄はまだ健常者であるものの、合体ZQNという「ハイパワーの基地局」の内部に入り込んだため、漏洩した意識を共有することになったという可能性です。隣の家でやっているファミコンの映像の電波が強すぎて、自分の家のテレビに薄く映りこんでいるような状態です(喩えが古い?)。

次に、比呂美が昏睡時に(元)来栖から受け取ったような言語的メッセージではなく、英雄が受け取っているのが視覚的イメージだけであるのはなぜでしょうか。

英雄が合体型覚醒者の体内という究極の至近距離に居るためにチャネルの「帯域」が広く、言語的メッセージだけでなく、より情報量の多い映像としてメッセージを受け取っているのかもしれません。

あるいは英雄が非覚醒者であるゆえ、高位な抽象概念である言語が脳の関門にブロックされ、より低位な具象的イメージだけしか受け取れない、という状態なのかもしれません。

英雄が受け取っているイメージは時間的にも距離的にもばらばらの、それぞれ別々の主の(そしておそらくいずれも「覚醒者」の)持つイメージです。時間的にはわずか数分前から2週間前の都心パンデミック時まで、距離的には至近数十メートルから遙か離れたヨーロッパまで、元はぱらばらの時系列・場所から発せられた別々の覚醒者の持つイメージ・記憶です。

英雄が受け取っているのは、言語的メッセージのように、なにか意思をもって英雄に語りかけているものではなく、各覚醒者から非自覚的に発せられたように見える彼らの記憶です。英雄はその記憶を自分のもののように主観として追体験しています。

つまり、覚醒者から英雄に伝えられたというより、英雄の方が、覚醒者の共有する記憶の海、イメージの海、追憶のスープの中に飛び込んだ、というのが正確な表現なのかもしれません。

ビューの主

前回165話に登場した共有ビューのそれぞれの主は、明らかにこれまでの登場人物でした。

  • 最初のビューはてっこの部屋、すなわち英雄自身のビューです。
  • 2番目の樹海の光景も英雄自身と思われますが、もしかすると比呂美のビューもまざっているかもしれません。
  • 3番目の九份(きゅうふん)基山街と九份茶坊は、台湾篇でのカズさんかカオリ(おそらくはカズさん)のビューです。

    1. 九份(基山街入口)
    2. 九份茶房
  • 4番目のブリュッセル「芸術の丘」の光景は、ベルギー編の主人公ジャンの見ていたビューです。ただし一部台湾篇の安東街のビューが混じり込んでいます。その次の階段も、ジャンの登ったレコード店の階段です。

    1. 聖地巡礼|ブリュッセル編(図の6がレコード店、7が芸術の丘)
    2. ここは麺ロード?(安東街)
  • そして5番目が、直前に比呂美の登った「てんぐ天国」への石階段のビュー、つまり比呂美のビューです。

この中で一番重要なのが、最後の比呂美のビューでしょう。これにより、クルス改が比呂美と意思を疎通している、もしくは意識を共有していることが判明するからです。クルス改が英雄や藪・比呂美を助けようとしているのも、それが原動力となっているからこそでしょう。

そしてこれは、英雄の意識と比呂美の意識がコネクトしたことも示しています。

もちろん比呂美の意識の上では、155話で「目が覚めたら心の中に誰もいなくなって」「ひとりがこんなにさみしいんだって感じた」と語っていたことから、そうした意識疎通・意識の共有を自覚していません。しかし意識下の働きでは活発に覚醒者SNSと交流していたわけです。ちょうどウイルスに感染したPCが、表面上は何の変哲もなく動作していても、内部ではバックドアやら何やらで遠隔地のハッカーやPCと遣り取りをしているようなものです(いやこの喩えもおかしいかな?)。

謎の覚醒者

前回・今回を通して最大の謎は、今回166話に登場した機上のビューの主=覚醒者が誰であるのかという点です。3ページ近くを費やして描かれた以上、無意味な描写であるはずがありません。

これまでに描かれた機上の光景は2巻に登場し墜落した報道ヘリの機内だけです。しかし今回の機内は、明らかに子連れ家族を乗せた遊覧飛行の情景と思われます。乗っているのがヘリコプターなのかセスナ機なのかそれ以外なのかは知識のない私には、描かれた操縦席・機内からは見分けがつきませんでした(見分けのつく方は教えてください)。

今回、見開き2ページに描かれた機内の描写で、右側のページでは何の異状も無かった操縦席右側窓ガラスに、左側のページでは血糊がべったりとついています。つまり右のページと左のページのあいだに、機内パンデミックのあったことを示しています。もちろんその感染源は右手に包帯を巻いた少女でしょう。

少女の後部座席には弟と思われる一回り小さい少年、その右に、つまりビューの主の後ろに座っているのは、おそらく二人の子供の父親でしょう。したがってこのビューの主が母親であることが強く推察できます。娘がごく自然に手を繋いでいることも、ズボンを履いたこの主が母親であることの裏付けと言えるでしょう。




また小学校中学年くらいに見えるこの少女の学齢(とより年少の弟)から判断して、母親の年齢は30代半ばあたりでしょうか。

これまでのストーリー中に、該当する登場人物はちょっと思いあたりません。機外の光景は、東京都心上空に思われます(これも実際の航空写真と照らし合わせたわけではないので、もし違う場合はご指摘願います)。

彼女は、英雄や崇一行が東京で出会うことになる新たな覚醒者であるのかもしれません。

トロイの木馬

ここまでは、覚醒者の共有する追憶の中に英雄が飛び込み、それを追体験するシーンが描かれていました。情報の流れとしては、覚醒者ネットワーク→クルス改→英雄、という方向です。

しかし最後にはそれが逆転し、英雄の意思がクルス改に影響を与え、その行動を制御するようになります。この流れについては、少し細かくコマを追ってみたいと思います。

  • 英雄の追体験の最後は、謎の覚醒者の記憶、ビルから墜落していく人の姿を目撃するシーンです。機上からこのシーンを目撃した時点では彼女(謎の覚醒者)はすでに感染していた可能性が高いですが、あまりにも強烈なシーンであるゆえ、彼女の記憶に焼きついたのでしょう。
  • これは追体験するだけでも苦痛を感じるような記憶であり、英雄は合体ZQNの口中で苦悶の表情を浮かべます。

  • ここで、英雄を呑みこんでいるクルス改の表情も、英雄と同じ苦悶の表情となります(下図右のコマ)。つまり英雄の意識が強い影響を与え、伝播していることを示しています。

  • おそらくここで英雄の意識は、「目の前に窮地に陥った人間がいる」→「救いたい|救わねば」という心理からの連想で、自分の置かれた状況、つまり「窮地に陥った比呂美と藪を救わねば」という現実に回帰したのでしょう。
  • 同図左のコマのクルス改の表情は、現実を再認識した英雄の心理を反映していると思われます。おそらくクルス改の口中で、英雄も同じ表情をしているはずです。

この後、クルス改はその視覚と嗅覚で二人の場所を求めようとします。嗅覚を使ったのは、英雄の意思がZQN特有の能力に翻訳されたものでしょうが、その後のクルス改の行動から、おそらくクルス改の(少なくとも)視覚情報の方は、英雄へとフィードバックされています。つまり、ここでは情報の流れは双方向となっているのです。

※記事中の画像は花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)単行本より

(2014/01/11 08:01 投稿)