「アイアムアヒーロー」第161話【ネタバレ注意】

ご存知の通り私は漫画の舞台をストリートビューで見つけるのを趣味としている男ですが、都心部ならそうとう裏筋にまで入っているストリートビュー車も、ちょっと地方都市に行くと高速や幹線道路沿いしか撮影されていなかったりします。

久喜市も、久喜編が始まった当初(2012年6月11日)はそういう状態で、久喜市内をストリートビューで見ることはほとんどきませんでした。しかし同年暮れには一気に市内の細かいところまで登録され(現時点での撮影時期は2012年8月頃)。おかげで「聖地巡礼-久喜編」も作成できた次第です。

今の連載の舞台となる箱根湯本も、ストリートビューで確認できるのは旧国道1号沿いのみで、しかも撮影時期は2009年11月、つまり4年前とかなり古いです。前話までの舞台の、箱根湯本駅から早川をはさんだ対岸側はもちろん撮影されていません(以下ネタバレとなります)。




今回、ようやく藪のマーチが(旧)国道1号に出てきて、背景をストリートビューで確認できるようになりました。今回のラストシーン、歩道橋下でトラックが横転している地点も特定できました。しかしなぜか漫画に描かれている歩道橋が写っていません。

最近撮影したらしいgoogle航空写真には歩道橋は写っていますので、どうやらこの歩道橋はストリートビューの撮影時期2009年11月以降に完成したようです(実際、このストリートビュー画像に写っている箱根湯本駅近辺は、あちこち工事中になっています)。

横転したトラックに行方を阻まれ、マーチに乗った三人は四面ZQNの状態に追い込まれました。

いつも心に…

振り返れば本作アイアムアヒーローは、常に静と動の繰り返しで物語が進行してきました。ある場所にしばらくとどまった後(静)、必ず次の場所への移動シーン(動)が描かれます。

動の部分に絞って少しまとめてみましょう。

  1. [英雄] 徒歩・電車・タクシーで都心脱出→樹海(第20~28話)
  2. [英雄・比呂美] 自転車で樹海→神社へ(第44~47話)
  3. [英雄・比呂美・荒木] 荒木の車で神社→富士五合目(第51~53話)
  4. [英雄・比呂美・荒木] 同じく、富士五合目→御殿場ショッピングモール(第59~65話)
  5. [英雄・比呂美・藪] 藪の車で、病院経由でモール→テント村(第92、98~109、147~148話)
  6. [英雄・比呂美・藪」同じくテント村→箱根湯本(さらに東へ?)(第153~161話)

分類すれば、これらは当てもない逃避行であったり(1、2)、目的地のある移動であったり(3、4、6)、その中間であったり(5)しますが、共通点として挙げられるのは、その移動中に必ずZQNに遭遇し、襲われ、命からがら逃げ伸びる、というシーンが含まれていることです。移動は常にハイリスクを伴うわけです。

そしてもう一つ、移動シーンに必ず含まれる共通点があります。それは逃避行の中で必ず英雄が見せる○○目線・○○願望です。これはそれぞれ例を挙げたほうが分かりやすいでしょう。

  1. 都心脱出(タクシー内)
  2. 神社への移動中(バス亭で)
  3. 富士五合目への移動中(車内)
  4. モールへの移動中(車内)
  5. 芦ノ湖への移動中(路上)
  6. 箱根湯本への移動中(タクシー内)


6は、藪の垂らした「混浴」というエサに食いついた英雄が、こぶしを握り締めて露天風呂行きを主張するシーンです。4を○○目線に含めるのは少し酷ですが、英雄自身の行動が、そういう願望と戦っていることを示していると思われます。

おそらく計算して必ず一度ずつ入れてあるこうした描写の目的は、一つには単純に英雄の性格の一面を描写するためのものでしょう。

また、サスペンス物語における「テンションアンドリリース(緊張と緩和)」のリリース部分の役割も、こうした描写がになっているのでしょう。特に今回(6)の、混浴に対する英雄の燃えたぎるような熱い情熱と、それを微苦笑で受け止める女性陣、というユーモラスな構図にそれは顕著です。

しかし結局は、こうした描写も、徹底したリアリズムに基づく人間描写の一環なのかもしれません。よく「人は生命が危険に晒されると、種族保存本能の働きで性欲が昂進する」と言われます。何となく通俗科学っぽい響きがするので私は種族保存本能云々あたりは眉唾だと思っていますが、平時であろうが非常時であろうが、よほど差し迫った状況でない限り、男の中には常に○○衝動・願望があるのは、自らを省みても、まぁそういうものだろうな、と思います。

旅の目的

さて、上に書いたとおり、今回で6度目の移動シーンとなる箱根湯本行。
この旅の直接の目的は、

  • 銃弾の補給
  • ガソリンの補給
  • 温泉

の三つでした。また、最終的な目的が

  • 東京行き

であることも、三人の意識に共有されているようです。
以上は、登場人物である英雄、藪、比呂美一行の持つ旅の目的です。

しかしここで155話から今回161話まで読み返せば、物語としてはこの行程に、もう一つ別の目的が潜んでいるようです。それは、この箱根湯本行を通じて、覚醒した比呂美の能力、覚醒者となった比呂美が獲得した新しい能力を描こうとしているのではないか、ということです。むしろそちらが主眼であるように思われます。




前回恐怖の向こう側でも書きましたが、来栖編の描写などから、覚醒者が獲得すると思われる能力には次の三つが挙げられるでしょう。

  1. ZQN特有のリミッターの外れた運動能力。特にそれを意志的に操る能力。
  2. 他のZQNとの直接の意思疎通能力。あるいは強いシンパシー(共感)力。
  3. (覚醒者による)並ZQN(非覚醒ZQN)のコントロール能力。

ここで3のコントロール能力については、作品内でも明確には描かれておらず、正直私もそれが存在するのかまだ確信が持てません。

ただ、久喜編で崇がZQNに襲われたときに見せた(元)来栖のZQNを操っているかのように見えた行動(12巻136話)、あるいは久喜第三中学校で、教室のZQNがあたかも何かにコントロールされているかのように見えた描写(同139話)から、そうである可能性が高いと感じています。

また、2のシンパシー力の延長上に、3のコントロール力があるのも自然な能力の発展形だとも思えます。ついでに書くと、ベルギーで暗示されたZQNの次のステージも、さらにその延長線上にあるのではないかと思っています。

155話から160話までの箱根湯本行までに描かれたのは、表面的には「テント村」から箱根湯本までの移動と、焼け落ちた銃砲店での銃弾と、おまけして新しい銃の獲得でした。しかしよく読めば、上の覚醒者の3つ(?)の能力のうち、比呂美の獲得した1と2の能力も同時に描かれていることがわかります。

  1. 比呂美が自覚的に使った(物理的)力(第157話)
  2. 比呂美自身によって語られるZQN同士の遠隔意思疎通能力(左)(155話)とシンパシー力(右)(158話)
      

もし箱根湯本行の目的が覚醒者比呂美の新しい能力の描写にあり、覚醒者の持つ三つ目の能力が他のZQNのコントロール力であるという二つの仮定が当たっているとすれば、箱根湯本行の最後は、その三つ目の能力の描写であるはずです。

今回第161話の最後で、藪のマーチは横転したトラックに行く手を阻まれ、四面ZQN、袋小路の状態に追い込まれました。一行の武器であった藪のマーチの機動力、英雄の銃による攻撃力はついに封じられてしまいました。

さて、ここからどのような展開が待っているのでしょうか?

来週、再来週は休載とのことです。再開は11月25日月曜日発売のスピリッツ第52号からです。

ちなみに作者花沢健吾先生は、浅野いにお先生と一緒に漫画関係のイベントに招待され、現在イタリアに滞在中です。帰国してから162話を描きはじめるのだとしたら結構タイトなスケジュールですね。

<※記事中の画像は花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)単行本より、または週刊スピリッツ(号数入りの画像)より

(2013/11/14 21:55 投稿)