「アイアムアヒーロー」第158話【ネタバレ注意】
“Over The Rainbow”は「虹の向こう」ですが、”Over The Panic” -「恐怖の向こう側」にあるものは何でしょうか?今回は最初からネタバレ全開です。
エキゾチック・ゾンビで推測した通り「黒焦げ ZQN と比呂美との間に、ZQN 同士特有の感応力が働いた」のは確かなようです。
今回第158話冒頭。迫ってくる黒焦げ ZQN を見た藪は、比呂美に逃げるよう警告を飛ばします。それに対して比呂美は、「大丈夫だよこの人…」と答え(かけ)ました。
つまりここで比呂美は、黒焦げZQNに三人を襲うような害意のないことを悟っています。また、比呂美の後のセリフからも、黒焦げZQNと比呂美との間に交わされた意思は、単なるフィーリング的なものではなく、言語的メッセージであることがわかります。
このことから、一方の交信相手である黒焦げZQNは、情動だけで動く並ZQNではなく、ある程度以上に理性を残したクルス的ZQNであったことがわかります。クルス的ZQNであったからこそ、(元)来栖と比呂美のように、離れたところから(今回は近距離ですが)、言語メッセージのやり取りが可能だったのでしょう。
比呂美の次のセリフ、「怖くないよ」「怖くない」は、ある種、経験者が初体験者に語りかけるときに使う言葉です。もちろんここでの比呂美の「経験」は、ZQN化してしまう経験、あるいはクルス化してしまう経験のどちらか、もしくは両方でしょう。
黒焦げZQNが倒れる直前まで銃で戦っていたことからすると、おそらくここで彼は、ZQN化(人としての死→ZQNとしての再生)とクルス化の両方を同時に経験しているところだと思われます。
その両方の経験者である比呂美が、ZQN化、あるいはクルス化が、必ずしも絶望的な、恐怖を伴うものではないことを、初心者である黒焦げZQNに伝えようとしているわけです(残念ながらその直後、藪の手によりZQN(クスル)としての死ももたらされるわけですが…)。
そうしたZQN化を迎えるときの恐怖は、黒焦げZQNのようなクルス型ZQNに限らず、もしかすると並ZQNにもあるのかもしれません。
過去に登場した多くの(並)ZQNの発症経過のパターンは、発症時には一様に激しい感情の暴発、情動失禁状態を呈し、やがて徐々に(人を襲うとき以外は)落ち着いた「静」の状態へと移行する、というものでした。
私はその発症時の感情暴発を、一つには強烈な攻撃衝動の発現、もう一つは理性の力の衰弱により抑えきれなくなった感情の発露、と解釈してきました。しかし今回の黒焦げZQNが比呂美に告げた(らしい)ことからすると、その背景に、未知の世界に堕ちていく原初的な恐怖感情もあるのかもしれません。
さて、久喜編以降に示唆されたクルス型ZQNの心理的能力の一つは、今回の比呂美のように、クルス型ZQN同士の言語的な意思の交感力です。そして、ZQNが崇を襲った時(12巻135話~136話)の描写からは、心理的能力のもう一つとして、クルス型ZQNには並ZQNをコントロールする能力があることが示唆されているように思えます。
そうだとすれば比呂美にも、並ZQNをコントロールする能力が備わっているかもしれません。
今回ラスト、英雄は窮地に陥ります。待機する車の位置と英雄の位置、一斉に登場したZQNたちの位置(とその数 – 少なくとも4人)、そして英雄の体勢。これまでのように銃や車だけでこの窮地を脱するのは難しそうです。
休載明けの翌々週、果たして比呂美のもう一つの心理的能力が発現することになるのでしょうか。
※記事中で引用した画像は単行本・花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)、または週刊『スピリッツ』(同)より
(2013/10/07 08:41 投稿)
※記事中で引用した画像は単行本・花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)、または週刊『スピリッツ』(同)より
(2013/10/07 08:41 投稿)