「白暮のクロニクル」第1話【ネタバレ注意】
ゆうきまさみ新連載の「白暮のクロニクル」が始まりました。正直前作バーディ打ち切りの経緯には非常に釈然としない思いが残っており、スピリッツ潰れてしまえとさえ思っておりましたが、私の願いが神様に届いて小学館本社ビル取り壊しとなったのは、慶賀の至りであります。
本日2013年8月26日月曜日発売のスピリッツに掲載された第一話。一部では早々に「白クロ」と略されているようです。
表紙のアオリには”犯罪マニア×公務員女子の「非・日常系ミステリー」”とありますが、個人的には本作は伝奇ロマンとしての側面もあるのではないかと予想、いや予想というより期待しています。以下ネタバレになりますので、未読の方はここでスキップお願いします。
作品タイトルは、薄暮ではなくて、白暮。作者の造語のようです(さっそくPCに単語登録しておきました)。「白暮」の意味については、現時点ではまだわかりません。
舞台は現代の日本とは微妙に異なるパラレルワールドの日本となっています。まずレバ刺し禁止が「3年前」とありますので、年代は2015年のようです(レバ刺しが実際に禁止されたのは去年2012年7月)。
またこの「日本」には「オキナガ」と呼ばれる種族が存在しており、一般にもある程度その存在が知られています。ある程度、というのは、実際には心臓を破壊することで死んでしまうにも関わらず、警察関係者でも不死と思ってる人がいるほどに、その実態が知られていないからです。
本作ヒロインの新人研修性女子、不思議ちゃんこと「伏木(ふせぎ)あかり」も、オキナガの存在自体は知っていたようです。
(現実の)古代日本には、息長(おきなが)氏という豪族が存在していました。古事記、日本書紀にも何カ所かその名前が出てきます。しかし息長氏については、それ以外の歴史的資料は乏しく、出自・系図も謎だらけのようです。ただ、古代天皇家との関わりの強い一族であったようです。
本作に登場する「オキナガ」がこの息長氏と関係しているのかどうか、現時点ではまだ分かりません。ただ、本作の文脈に照らせば、息長という名前は意味深長です。
「はくしょん」「くそっ」というときの「くそ」が、休息万命急々如律令(くそくまんめいきゅうきゅうにょりつりょう)から来ているのはご存知でしょう。古来「息」は生の象徴であり、その息を一気に吐き出すクシャミを不吉なものととらえ、厄払いのおまじないとして「休息万命急々如律令」と唱えたわけです。
同様に息長を「息(生命)」が長いと捉えれば、不死伝説のあるオキナガと意味が重なってきます。もしそうであるとすれば、本作は遙か古代史にもつながる伝奇ロマンとしての一面を持つということになります。
タイトルに含まれるクロニクル(年代記)という単語も、そういう推測を強めてくれますし、第一話の最後に登場した按察使(あぜち)文庫の「按察使」という言葉も古代史との関わりを示しているように思われます。「夜間衛生管理課(やえいかん)」という言葉の妖しい響き、そしてオキナガ連続殺人は、オキナガが闇の歴史で負の役割を負わされてきたことの示唆ではないでしょうか。
伝奇ロマンと言えば思い出すのが故半村良氏の『産霊山(むすびのやま)秘録』(右写真は集英社文庫の同作品。クリックしてアマゾンに)。
古代から天皇家と深い関係を持ってきた「ヒ一族」が日本史の裏面を操ってきたという、伝奇ロマンの、いや日本SFの最高傑作の一つです。そもそも伝奇ロマンという言葉もこの作品のために作られた言葉です。
さて、本作のもう一人の主人公である「犯罪マニア」の雪村魁(ゆきむらかい)。彼が冗談で自称した「18歳」という年齢は、外見からも実際の彼の生理的年齢に近いと思われます。そして実年齢が88歳なのであれば、彼は成長速度が普通の五分の一であるということになります。単純に計算すると、寿命が400歳前後の長命種です。
この長命種がオキナガと同じ存在であるのか、それとも微妙に異なる種であるのかは現時点では未確定です。
また、成長速度が五分の一と書きましたが、実際にそのようにイーブンに成長するのか、それともある年齢で身体的成長が停まって長命となるのかも、現時点ではわかりません。一般的なSFの設定では前者の可能性が高いのですが、魁と同じく長命種(=オキナガ?)の形質的特徴であるところの「立派な眉毛」を持っている主人公あかりが、現時点ではオキナガ(?)ではなさそうであること、少なくともその自覚を持っていない、ということは、なんらかの条件が整ってのちにオキナガ(?)が発現するケースもあるのかもしれません。
冒頭に登場した老婆は、最初はオキナガ(?)族の長老かと思いましたが、魁が「君」呼ばわりしたところを見ると、おそらく彼女が若いころに魁と知り合いになり、魁よりずっと早く年老いた一般人なのでしょう。
同様に魁は、見た目彼よりずっと年上の厚生労働省キャリア「竹之内」も呼び捨てにしていますが、これは単に魁の口の悪さを示しているだけかも知れないので、現時点ではなんとも言えません。とはいえ、高級官僚として出世を重ねているのですから、やはり一般人でしょうかね。
いずれにしろ、これだけ様々な情報や布石、伏線が詰め込まれた第一話を読んでも、まだまだ謎だらけです。今後の連載が楽しみな作品であることは間違いありません。
竹の内参事って、武内宿禰のことでは?
武内宿禰も長命だったそうだけど