「アイアムアヒーロー」第147話【ネタバレ注意】

本日、amazonに12巻の表紙カバー画像が掲載されました。これまでで一番謎な表紙となっています。




連載の方はようやく本編に復帰です。今回は三人の会話がメインとなっています。登場人物がこんな風に穏やか(?)に会話するのは、思い起こせば台湾編の九份茶房での発症直前のカオリとカズの会話(97話)以来、一年半ぶりのことです。穏やかに、というのは、多少の痴情のもつれはあっても、生死に直結するような切迫した状況下ではない、という意味です。

もちろんそれも砂上の楼閣、ほんの束の間のものでしょう。しかし数話の間くらい、この雰囲気が持続してほしいと切に願っています。ここからはネタバレオンになりますので、未読の方はスキップをお願いします。

まず、芦ノ湖編の舞台の地図を「アイアムアヒーロー | 【聖地巡礼】 芦ノ湖」にまとめてありますのでご参照ください。

今回、比呂美の意識ははっきりと戻り、表面上のZQN症状も消え失せています。これまでにも何回か書いた通り、比呂美の症状がモール編前後を通じて徐々に改善に向かっていたのは注意深く読んでいれば明らかでしたので、比呂美が回復して登場したのは予想通りであるか、少なくとも期待通りではあります(良かった良かった)。

ただ、久喜編で明らかになった「半感染者」のカテゴリーに、表面上は回復した比呂美が属していることも確かなようです。

さて、三人の会話がメインと書きましたが、その中でいくつか重要な事実や大きな進展のあったことが明らかにされます。

  1. 比呂美の二週間の睡眠と三週間の記憶喪失
  2. 比呂美の急激な伸長
  3. 英雄と藪の関係

まず第一は、比呂美は前回146話の最後で「生きててよかった」とつぶやいた直前まで意識がなかったことです。英雄によると比呂美は「二週間以上寝ていた」とのこと。この「二週間以上」の起点とは、藪が「芦ノ湖ペットクリニック」で比呂美の抜釘手術をした2009年5月11日月曜日のことでしょう。したがって147話の時点の日付は、5月25日以降となります。26~28日あたりでしょうか。

そして比呂美には富士五合目以降の記憶が欠落しています。おそらく5月4日月曜日、荒木の車で富士五号目に到着し、夜、酒盛りをしたあたりまでが最後の記憶で、翌日5月5日火曜日早朝に発症して以降の記憶がないのでしょう。

つまり、比呂美の記憶の無い期間は、5月4日から5月26日以降の三週間以上、ということになります。

そういえばベルギー編の主人公ジャンも、感染後に発症以前の記憶を無くしていました。ZQN発症時の人格を多重人格におけるもう一つの人格と同じようなものと考えれば、別人格である間の記憶は共有されないのかもしれません。

あるいは強い不快感を伴う記憶を無意識に抑圧するという心の働きなのかもしれません。自身がZQN化していた記憶は決して心地よいものであるはずがありませんし、自身の手で紗衣にとどめを刺したのも苦痛を伴う記憶でしょう(後者に関しては富士五合目以前の出来事なので、忘れているのかどうかはわかりません)。

ただ、英雄と比呂美の関係が徐々に深化していくという物語の骨子がまだ継続しているとすれば、5月4日からモール編を経て11日の手術日までの出来事、特に英雄との間の出来事は、二人の関係を深めるための重要なエピソード群となるものです。

そうした期待も込めて、おそらく比呂美は徐々に(あるいは突然)、一週間のあいだの記憶を取り戻すのではないかと予想しています。




第二は、その二週間の間に、比呂美の身長が150cm弱から160cm強へと一割近くも伸びたことです。ついでに額の傷跡も消え去っています。人体の生理学的にはあり得ないことです。当然これは、ZQN感染による体質の変化なのでしょう。

二週間寝ていたことも影響しているのかもしれません。一般に成長ホルモンの分泌が活発になるのはノンレム睡眠期です。ZQN感染と手術後の深い昏睡状態にあった比呂美の脳内では同様の機序により、あるいはZQNウイルスによる賦活により著しく成長ホルモンが…などという屁理屈はもはやどうでもいいですね。個人的には比呂美ちゃんにあんまりあっちの世界に行って欲しくないなぁ、と思っています。

ついでに英雄の身長が170cmということも判明しました。

以前「アイアムアヒーローにまつわるエトセトラ」で登場人物紹介欄を作っているとき、英雄と比呂美の身長がどれくらいなのかと少し悩んだことがあります。

その時、右のコマを使えば、ある程度正確に計算できるな、とヒラメきました。二人向かいあわせに立っているので、比呂美の身長は英雄の身長との比較から計算できます。

そして英雄の身長は、体に沿って下げている銃の銃身との比較から計算できます。

しかし肝心の銃(SKBのMJシリーズのMJ7もしくはMJ9)の銃身の長さが、検索してもでてきません。メーカーはすでに倒産しているようです。そのうちネットで持ち主を探してメールで問い合わせるという過激な手段に訴えようかとさえ思っていましたが、お陰で問題は穏便に解決しました。

今回明らかになったことの第三は、この二週間の間に、おそらくはこれも比呂美の目覚める比較的直前に、藪と英雄の間の関係が非常に親密なものとなる出来事があったらしいことです。正確に言うと、英雄にとってはそれは当然親密な関係となるべき出来事であり、藪にとってはそれほどでもない出来事のようです。あるいはそういう出来事であっても藪の性格からあからさまに態度を変えたくないのかもしれません。思うに「セックス、嫌いじゃないんでね」(74話)という藪が「英雄を手籠めにした」に近い状況だったのではないでしょうか。

この英雄と藪の関係の変化が、今後、比呂美の心理に微妙な影響を及ぼしていくことにもなるのでしょう。

ともあれこうした、露骨な描写なしに読者に二人の間の出来事を悟らせる会話の妙が、花沢作品の真骨頂だといつもながら感じるのです。
※記事中で引用した画像は単行本・花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)、または週刊『スピリッツ』(同)より

(2013/06/24 04:15 投稿)