週刊連載派の楽しみの一つは、単行本刊行時に週刊掲載時の原稿と比較して加筆・修正個所を探すことにあります。



巻によっては見開きページが数ページにわたり追加されていたり、ぎょっとするようなところに色が追加されていることもあります。また、コマ単位の修正に至っては無数にほどこされ、かなり丹念に比較しないとわからないコマもあります。

見開きの加筆ページやカラーの追加ページなどが単行本発行時の読者サービスであるのに対し、コマ単位の修正は、ポカの修正も一部ありますが、おもには週刊誌掲載時に説明不足だったり伝わりにくかった作者の意図を明確にするためのものと、その逆に意図が露骨すぎる部分を若干あいまいにしたり、あるいは微妙に修正するケースがほとんどです。

次の例は、意図をより明確にするために加筆されたコマの例です。上が週刊誌掲載時、下が単行本発売時のコマです。どこが違うかわかるでしょうか?


はい、そうですね。ヘッドフォンのコードが追加されています。

加奈子(デブ)は、比呂美いじめの主犯であると同時に、紗衣グループ内ではいじめの対象とされる微妙な位置にありました。比呂美の運動靴を体育館の屋上に放り投げたのも、おそらく加奈子による単独犯行です(→「靴についての考察」(後日掲載))。

紗衣たちによる陰湿ないじめの謀略を漏れ聞いてしまった比呂美は、ソフトに、かつ高圧的に口止めをされます。

比呂美にとっては加奈子がいじめられることは「ざまぁ」であると同時に、それを知りながら黙っている自分の心理は「おっかない」ものでした。そのために耳をふさぎ、加奈子がはめられるシーンを聞かなかったことにしようとしたのでしょう。

ヘッドフォンのコードの追加は、その心理をより明確にするためのものとも言えます。

もう一つの意図は、ストーリー上の要請でしょう。

ここで加奈子がはめられたインチキじゃんけんの手口は、あとで林間学校の宿舎で加奈子が比呂美を陥れた手口と同一です。加奈子は自分の嵌められた「最初はグー」の手口をそのまま比呂美に使ったのでした。



比呂美には、人の微妙な心理を察するに若干疎いところがあります。ありていに言うと多少鈍いところがあります。しかし目の前で加奈子が嵌められた手口にあっさり引っかかってしまうのでは、うかつさにも程があるというものでしょう。

そのため、ここでは単に耳をふさいだだけではなく、クラス内で起こったことが物理的に聴こえていなかったことを強調するため、コードを描き加えたのでしょう。

※記事中で引用した画像は単行本・花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)、または週刊『スピリッツ』(同)より

(2013/06/21 23:45 投稿)