「アイアムアヒーロー」第146話【ネタバレ注意】

この漫画に関して「予想外の展開」というフレーズを使うのは数えてみると今回で 128回目になるのですが、146話も予想外の三乗の展開でした。今週はビシバシネタバレが入りますので、未読の方はここでスキップをお願いします。




144話と145話で提出された謎が結構な分量だったことから、ベルギー編も少なくとも台湾編(94話~97話の4話)以上の長さになることを予想していました。ですから今回三話目で一気に終了してしまったがまず予想外です。しかし三話といえども、その中で見事に一つの物語を完結させたことには素直に驚嘆しています。

ベルギー編の主人公ジャン(という名前であることが判明します)についての私の予想で当たったのは「記憶喪失かも」という部分だけでした。それも、いくつも並べた予想の一つであり、肝心なところを外していますので、まぁ丸外れに近いでしょう(他にも、色々と外しました)。

そしてこの146話の最後に登場した人物。三話で終ることが予想外でしたので、この人物が今回登場したことも、当然予想外です。久喜編最後が英雄、次回におそらく藪が登場しますので、本編の登場人物を小出しに登場させるシステムでしょうか。

個人的に一番予想外だったのは、この最後の登場人物の発した台詞です。まぁ具体的に書いちゃいますが、比呂美の発した「生きてて良かった」という台詞です。これがここで出てくるのは予想外、というか非常に困ってしまいました。

というのはちょうど先週金曜日に書いた考察編絶望についての考察で、過去二回出てきたこの台詞について取り上げる予定、と書いたばかりだからです。今回のこの台詞は、どうも過去二回とは正反対、というか言葉通りの意味で使われているような感じもしますので、本件については暫時ペンディングとさせていただきます(今週金曜日の考察ネタは、なんか別のネタにします→(結局予定通り「生きててよかったについての考察」にしました))。

ともあれ、ベルギー編の先週までの二回に出てきた謎も、おおむね今週号で解決されました。謎解きに関しては本誌を読めば明らかなので細かくは書きませんが、ここでは本誌を読んだだけでは明らかでない、重要な意味を持つ情報を一つ挙げておきたいと思います。

まずジャンがたまたま足を踏み入れた教会ですが、右図のA のアイコンの位置にある「サブロン聖母教会」になります。144話で最初に彼が目覚めたブリュッセル公園からは南西に直線で600mほど移動した距離です(地図をクリックすれば大きい地図が表示されます)。
 
 (※ 聖地巡礼ブリュッセル編を作りましたのでご参照ください)

一方、ジャンの妻セシルがおさな子と隠れている城は、同じくB のアイコンの位置にあるガースベーク城(Château Gaasbeek)です。

漫画内ではガースベーク城がグレスバーグ城(Château Gresbaak)となっていますが、これは入間市(いるまし)が入門市(いるもんし)になったようなものでしょう。グレスバーグ城というのは検索しても出てきませんので、おそらく現実には存在しません。

道路からは少し離れた位置になるため、城門を Googleストリートビューで確認することはできませんでしたが、右のGoogle 航空写真をクリックすれば、ほぼ漫画と同じ構図の写真が確認できます。

サブロン聖母教会とガースベーク城との間の二人の距離は直線で 13~14km ほどになります。車なら約24分です。

ブリュッセル郊外で行動を共にしていたジャンとセシルのうち、ジャンは息子マークを探すためブリュッセル市内に戻りました。

ジャンは市の中心部、ブリュッセル公園で子供(マークかもしれません)に噛まれたものと思われます。噛まれたはずみで転倒でもして気絶したせいなのでしょうか、あるいはZQN感染の影響なのでしょうか、目覚めたジャンは逆行性健忘の症状を呈しています。そしてこれは明らかにZQN感染の影響でしょう、比呂美や崇のように幻視(ムカデ人間や教会を覆う巨大な触手)の症状も現れました。

一方でジャンと離れたセシルは、おさな子とともにグレスバーグ城に逃げこんだものと思われます。

空爆は、おそらく実際に進行中なのでしょう。日本の宜野湾市のように(112話)、非組織的な軍事力の行使が行われているのかもしれません。




二人の携帯のやり取りで特に印象に残るのが次の会話です。
 セシル「あなた、どこにいるの?」
 ジャン「君によく怒られた場所。」
 セシル「……ノートルダム・デュ・ロレット教会ね!」

なかんずく、セシルの一瞬言葉を詰まらせた間(「……」)の部分が胸を打ちます。

「ノートルダム・デュ・ロレット教会」はパリにあります。下の地図の B の位置です。ジャンが実際にいるブリュッセル(A)のサブロン教会からは国境を越えて300kmほど離れた、ぜんぜん別の場所です。ブリュッセルとパリ間は、ちょうど名古屋と東京の距離に相当します。


クリックして大きな地図

パリはモンマルトルの丘のふもとにあるロレット教会は、セシルとジャンがパリにいた青春時代、二人でよく一緒の時間を過ごした教会だったようです。

もちろんセシルは、ジャンの現在地がパリではなくブリュッセルであることは十も承知しています。同時に、ジャンが記憶を失っていること、子供に噛まれたと言っていることからすでにジャンが感染してしまったことにも気づいています。

セシルは短い「……」の間のあいだに、ジャンの意識が混乱し、ブリュッセルのどこかの教会を、二人の共通の想い出の場であるロレット教会と思いこんでいることを悟ったのでしょう。泣きながらもとっさに話をあわせ、「ロレット教会ね」と言ったのでした。

崩壊していく大聖堂。ジュテーム。ジャンの告げた最後の言葉を聞いたセシルにとってのもう一つの救いは、ジャンの最期の居場所が教会であったことかもしれません。
※地図画像はいずれも(c) Google

※記事中で引用した画像は単行本・花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)、または週刊『スピリッツ』(同)より

(2013/06/10 05:25 投稿)