「アイアムアヒーロー」第140話【ネタバレ注意】

今回のエントリは、特に後半部分はモロにストーリーの展開に絡みますので、本誌未読の方・単行本派の方はスキップお願いします。





前回同様、久喜第三中学正門前のストリートビュー画像との比較から。前回と違うのは、漫画の構図とほぼ同じ角度のストリートビュー画面と比較できることです。

  スピリッツ 2013年 No.16『アイアムアヒーロー』p167(c)小学館
久喜第三中学正門

漫画とストリートビュー画面を切り替えるとわかるように、正門外側の絵は実際のストリートビュー画面と一致していますが、門の中の建物はまるで異なっています。アイアムアヒーローは、絵と実際のロケ写真を撮りこんだ背景を合成する手法を多用していますが、その背景自身も二つの画像を合成されていることがあります。

樹海の中の電話ボックス

32話で比呂美は深夜、死の観念に囚われながら樹海の中を歩きます。そこに登場した電話ボックスのコマ(右図)は、実際はなにも無い樹林の上に電話ボックス合成したもので、現地のストリートビューはこんな感じです (ただし冬季に撮影されたもの)。

37話の比呂美の回想シーンに出てきた紗衣と比呂美の高校は、外観は都内某所の女子校ですが、中身の建物は別の学校の画像が使われていました。

99話、乙女峠手前、箱根裏街道沿いの、英雄がエロハスを買った自販機も、おそらく背景上に合成したものだと思います。

さて、上の正門前の絵では白抜きしておきましたが、ここで苫米地(とまべち)の語ったセリフに重要なキーワードが含まれています。「その中の一人が、ZQNにかまれて覚醒したんだ」の「覚醒」という言葉です。ここで苫米地が「覚醒した」と表現したのは、久喜第三中学を支配している、来栖とは別の「もう一人のクルス」が、普通にZQNになるのではなく、来栖や比呂美のような半感染者になったことでした。

「覚醒した」は、精神的な意味でなにかに目覚めたことを言う場合もあります。実際来栖が、崇に対して生と死の意味について語りかける場面が描かれており、ある種の悟りの境地に達しているように見えます。

しかし、ここで苫米地が「覚醒した」と表現したのは、精神的なことより、むしろある特殊能力が発現したことを指していると思われます。

もちろんその能力には、超人間的な運動能力のことも含まれているでしょう。ZQNと同じ驚異的な運動能力と、それを運動暴発的にではなく、意識によって操れる能力です。しかしどうやら苫米地は、それよりもっと特殊な能力のことも察していたようです。

現時点ではまだ仮説ですが、半感染者が獲得するもっと特殊な能力とは、普通の、つまり完全な感染者となってしまった他の ZQN を、意のままにコントロールする能力ではないでしょうか。意のままに、というのは正確ではないかもしれません。今回140話のラストに登場した「もう一人のクルス」はともかく、来栖に関しては、なにものかが下りてきたときに初めて使える能力であるようにも見えます。

前回139話で最大の謎だったのが、キズキたちを見たのにもかかわらず、教室のZQNたちがまったく襲って来なかったことでした。ZQNたちが見せたのは、まるで何かの力で「感情」を押さえつけられているようなそぶりでした。一種、含羞を含んだそぶりです。この行動は、彼らが「もう一人のクルス」のコントロール下にあったと考えれば説明がつきます。

139話で毅(こわし)が「なるほど、巣かもしれないな」と言ったり、今回それをトランシーバで告げられた苫米地が「なるほど巣か…」「フッ、わかってきたぞ」と言ったのも、毅と苫米地が、「狂巣」のこの能力を把握していたことからこそ出てくるセリフでしょう。




涅槃の待ち人で、ZQNに襲われる崇(たかし)を来栖が笑って見ている(138話)のを意外だ、と書きましたが、これも、むしろ来栖が ZQN 達をコントロールし、崇が半感染者になる程度に甘噛みさせたと考えれば、崇が都合よく半感染者になったことの説明がつきます。

この仮説が正しいとすれば、122話で苫米地が得意顔で崇に語った「ZQNが少しずつ南に移動している」という現象も、今後の物語の方向性を示しているかもしれません。

自然界には四つの力が存在していて、その中には重力のように、比較的微弱でありながら無限遠にまで力を及ぼす力もあれば、「強い力」のように重力よりはるかに強力でありながら、ごく近い距離にしか影響を及ぼさない力もあります。

仮説の上に仮説を重ねることになりますが、半感染者が他の ZQN をコントロールする能力に、来栖や「もう一人のクルス」のように、周りの ZQN に強い影響を及ぼす力のほかに、行動にはわずかにしか影響しないものの、はるか遠方の ZQN にまで影響を及ぼす力もあると考えれば、「一人一人には意思がない」ように見えるZQNが総体として南を目指しているという現象にも説明がつきます。

南と言っても、まさか南極から電波を飛ばしているわけではないでしょうし、物語上からは、やはり中田がサンシャイン60に立て籠もってもいる東京あたりが発信地でしょうか。

久喜編がいつまで続くかわかりませんが、もし東京が発信地とすると、久喜編の次の舞台は東京に回帰することになるかもしれません。ただ、モール編のあとに短く台湾編をはさんでワンクッションを置いたように、久喜編の次に、どこか遠い地(離れ島とか、遠い外国とか)を舞台にしたエピソードが挟まれるのかもしれません。

※記事中の画像は花沢健吾『アイアムアヒーロー』(小学館)単行本より

(2013/03/19 03:51 投稿)